建設特許の判例

森本組の「護岸工事」を新日鉄らが訴えた

平成25年(ネ)第10012号 損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地裁平成22年(ワ)第44473号事件)
争いの背景
特許第4105076号を共有する新日本製鐵住金と技研製作所は、森本組がJV工事で採用した護岸の連続構築方法(森本方法)が、本件特許権の技術的範囲に属するとして、森本に対し、不法行為に基づく損害賠償請求に基づき数億円の賠償を求めました。
東京地裁は、そのうちの約7400万円の支払いを認めたので、森本はそれを不服として控訴したものです。
新日鉄特許とは
新日鉄と技研製作所の所有する特許4105076号の請求項の記載は以下の通りです。
鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて、先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し、この鋼管杭列から反力を得ながら、上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築し、その後、上記鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する護岸の連続構築方法。
この工法を採用すると、次のような効果があります。
コンクリート護岸の改修工事や護岸の補強工事あるいは河川等の浚渫工事等が安全かつ効率よく行える。
特に従来では拡幅不可能な河川等における改修工事が可能となり、この拡幅工事を行うための仮設工事を一切必要としないので工期の短縮、工費の削減を図ることができる。また、鋼管杭を回転しながら圧入するため、アースオーガ等の装置も必要としない。
そのような効果が達成できる工程を図示すると次の通りです。
森本の反論
森本側の反論は「連続壁」に絞ったようです。
たぶん、他の全体の工程、「コンクリート擁壁を打ち抜く工程」、「河川側のコンクリートを撤去する工程」はほぼ同じで逃げようがなかったからでしょう。
そこで森本は、森本工法の連続壁と、新日鉄特許の「連続壁」との相違点として次のように主張しました。
「連続壁」とは、既存のコンクリート護岸と当該コンクリート護岸に打設された鋼管杭列により構成された壁体であり、これにより確実に止水性が確保された鋼管杭列を意味する。
森本方法は、鋼管杭より河川側のコンクリートブロック積護岸と土砂を除去する前に、鋼管杭列の河川背面側に薬液を注入し、その後、鋼管杭と鋼管杭の25cmの隙間に鋼板を溶接して連続壁を構築する方法である。
だから「連続壁」に当たらない。
高裁の判断:連続壁か否か
上記のように森本は、「連続壁」とは、これにより確実に止水性が確保された鋼管杭列を意味するものであるのに、森本の方法では、鋼管杭列の河川背面側に薬液を注入し、その後、鋼管杭と鋼管杭の25cmの隙間に鋼板を溶接して連続壁を構築する方法である。
だったら新日鉄特許の「連続壁」には当たらないと主張していました。
それに対して高裁は、
「コンクリート護岸」とは、川岸や海岸等を流水等による浸食作用から保護するために、法覆工、基礎工及び根固工等によって形成され、法面をコンクリートブロック、コンクリート、自然石又はこれに類する物で被覆するとともに、これらの背面に裏込材を充填した構造物を意味するものであると解される。
その際に鋼管杭同士は接触して並ぶか、あるいは一定の間隔を開けて並ぶのであるから、止水性を有しない裏込材を打ち抜いた鋼管杭が一定の間隔を開けて並んだ場合に、その鋼管杭列のみによっては止水性が得られないことは、本件発明の予定するところである。
したがって森本のように、「連続壁」とは確実に止水性が確保された鋼管杭列に限定する、という主張はその理由はなく採用できない。
さらに森本は、森本方法では、鋼管杭列を構築した時点で連続壁が構築できず、鋼管杭列を構築した後、薬液注入や鋼板を溶接しながら段階的に河川側のコンクリートブロック積護岸を除去するのだから、その点でも連続壁に該当しない、とも主張していました。

しかし、「森本方法によって「連続壁」が構築されることは、前記のとおりであって、また、森本方法によっても、段階的にせよ河川側のコンクリート護岸と土砂が除去されるのであるから、森本の主張は採用できない。」と判断されました。
公然実施されたか?
森本は高裁での争いの段階で、それまで主張しなかった理由、すなわち新日鉄特許が無効だ、と新たに主張しました。
平成13年に滝の川工事で公然と実施された工法から容易に発明できたもので特許性がない、というものです。
しかしその主張は二つの理由で採用されませんでした。
  1. まず「時機に後れた攻撃」である、という理由です。
  2. 滝の川工事に関する記載は、遅くとも原審口頭弁論終結以前には、新日鉄技研及び技研施工のホームページに掲載されていたと認められるから、今頃になって主張するのは、時機に後れている。
    そして時機に後れたのは森本の過失によるものであるし、新たな無効事由の主張は、訴訟の完結を遅延させるものであるから、上記主張を却下する。
  3. 公然とは言えない。
    さらに「念のため」、として工事の実態を検討しました。
    この工事は地中で行われたもの、だから外見から判断できず「公然実施」とは言えない、という判断でした。
  4. この点について、森本は行政機関に対する情報公開によって入手が可能となった滝の川工事の竣工図を参照すれば地中で行われた部分についても公然性を充たし得ると主張した。
    しかしその竣工図の記載をもってしても、滝の川工事のうち、地中で行われている工程については、外見からは知ることができず、地中で行われる工程については公然と実施したとまでは認められない。
    そうすると、滝の川発明に基づいて本件発明が容易に発明できた、とする森本の主張は失当である。
結論
こうして森本の控訴は理由がない、と判断されて控訴は棄却され、約7,400万円の支払いを免れることはできませんでした。
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