建設特許の判例

東京製鋼が川鉄建材を訴えた

平成13年(ネ)第1213号 損害賠償請求控訴事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/159/012159_hanrei.pdf
(原審・東京地方裁判所平成12年(ワ)第992号)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/695/012695_hanrei.pdf
事件の背景
東京製鋼は、川鉄建材とゴショーが施工した六甲有料道路の災害防除工事が、東京製鋼の有する特許権(登録第2679966号)を侵害するものであると主張し、特許権侵害による損害賠償を請求しました。
川鉄に対して約1,200万円を支払え、という内容でした。
東京地裁では東京製鋼の主張は認められず、それに不服の東京製鋼が控訴したものです。
東京製鋼の特許とは
東京製鋼の特許(本件特許)の請求項は次のように記載してありましたが、その請求項の「立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木を避け、かつ前記浮き石の上を通るように網目状に張設し」という構成が問題となりました。

特許請求の範囲(平成12年3月28日の訂正請求書で訂正)
立ち木および浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木を避け、かつ前記浮き石の上を通るように網目状に張設し、これらワイヤロープの端末をアンカーを介して傾斜面に係止するとともに、各ワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結し、さらに前記傾斜面の複数箇所に穴を掘り、これら穴内にそれぞれ凝固剤を充填し、これら凝固剤中にそれぞれアンカーを差し込んで固定してこれらアンカーによりワイヤロープの交差部を係止し、前記ワイヤロープを前記点在する浮き石間で傾斜面の地形に沿って密着するようにして前記浮き石を押え付けることを特徴とする落石防止工法。
この工法による完成図は以下のようになります。
ワイヤロープは、立ち木を避け、かつ浮き石の上を通っています。
東京製鋼の主張
東京製鋼は次のように主張しました。
負けた地裁での判決に対する反論です。
東京地裁は「その立ち木を伐採することなく」とは、「傾斜面上に存在する立ち木を1本たりとも伐採することなく」という意味に理解すべきであると解釈した。しかしこの解釈は誤りである。
なぜなら、本件特許の特徴は、ワイヤロープの敷設線上に立ち木があった場合に、その立ち木を伐採することなく、ワイヤロープの柔軟性を利用して立ち木を避けてワイヤロープを張設することが特徴だからである。
したがって「その立ち木を伐採することなく」とか「立ち木を避け」といっているのは、ワイヤロープの敷設線上に立ち木がある場合について述べたものであって、そうした箇所にある立ち木、すなわち「邪魔になる立ち木」を「伐採することなく」と表現したものである。
元来ワイヤロープには柔軟性があるのだから、その「線上にある立ち木」だけを伐採することなく、それを避けて張ればよい、という意味であって、原判決のように「斜面上の立ち木を1本たりとも伐採することなく」と言っているのではない、との主張です。
下図のようなイメージでしょうか。
だから、ワイヤロープの線上にない立ち木は「邪魔にならない立ち木」であるから、本件発明でいう「その立ち木を伐採することなく」、「前記立ち木を避け」の「立ち木」には当たらない。
そしてワイヤロープの敷設線から外れた位置にある立ち木(邪魔にならない立ち木)を伐採するか否かは、本件発明とは無関係であり、判断に当たって考慮する必要がない、というのです。

そうすると、川鉄工法ではどうか?
川鉄工法では、ワイヤロープ敷設線上に残った立ち木(邪魔になる立ち木)を「伐採する」ことなく、立ち木を避けて張設している、したがって本件特許の構成要件をすべて充足すると主張し、地裁ではその東京製鋼の主張が認められなかったのです。
当裁判所の判断
高裁もまた、川鉄工法は本件特許の構成要件を充足しない、との結論でした。
川鉄工法は本件特許を侵害しない、というのです。
  1. 「立ち木」とは?

  2. まず問題の「立ち木」について検討しました。
    請求項記載の「立ち木」が、(1)傾斜面上に元々存在する「全部の立ち木」を意味するのか、それとも(2)「ワイヤロープの敷設線上にある立ち木」のみを意味するのかという問題です。

    裁判所は、「その立ち木を伐採することなく」という文言が特許請求の範囲に付加された経緯を検討しました。
    この語句は、特許庁における手続きの中で追加され、その訂正が認められて特許が維持されたものだったのです。
    異議申し立ての際の訂正請求において、特許庁はその訂正が「立ち木をそのまま残せるから、環境破壊を招かず」という格別の効果に対応するから、特許を維持する、との決定をしたのでした。
    この経緯からすると「立ち木」とは傾斜面の上に「点在する立ち木」を指し、傾斜面の上に元々存在する複数の立ち木を総称したものであると解される、と認定しました。

  3. ではワイヤロープを曲げることは?

  4. 東京製鋼は、本件発明の特徴は、柔軟性のあるワイヤロープを曲げることによって立ち木を避けることにある、そして曲げることによって避ける立ち木はワイヤロープの敷設線上にある立ち木である。
    だから本件発明で問題になる「立ち木」は、ワイヤロープの敷設線上にある立ち木であると主張しました。
    その主張をもう一度、下に図で示しますが、もっともな主張に聞こえますね。
    しかしその裏付けはどうか?
    明細書には、ワイヤロープの柔軟性を利用して立ち木を避けるとか、ワイヤロープを曲げることで立ち木を迂回するといった記載が一切存在しなかったのです。
    平面図を見ても、ワイヤロープを曲げて立ち木を迂回することは示されていない、と指摘されてしまいました。裁判になってからの思いつきだったのです。
    そうだとすると「立ち木」がワイヤロープの敷設線上に存在する立ち木に限定されるという東京製鋼の解釈は採用することができない、という認定です。

  5. 立ち木が優先

  6. 以上の点を基に理解すると「立ち木を避け」は、立ち木の生えている位置を外してワイヤロープの敷設線を設定することにより立ち木を避けることを表現したものであると認められる、すなわち、立ち木優先で、立ち木に手を触れず、ワイヤロープの配置は立ち木の位置次第で決まる、という発明です。
    だからワイヤロープが避けるべき「立ち木」は、「傾斜面上に元々存在する全部の立ち木」を対象として、これを「伐採することなく」、「避け」て、各ワイヤロープを敷設することを要求していると解すべきことになる、のです。
川鉄工法は?
その点川鉄工法ではどうか?
川鉄工法ではワイヤロープを張設する前に、邪魔になる立ち木を伐採してしまい、立ち木をなくしてその後に複数のワイヤロープを縦横に張る工法でした。
実際の現場では、ワイヤロープの張設に先だって、傾斜面上に元々存在した立ち木のうちの相当数を伐採していましたが、伐採の本数はワイヤロープの敷設線上にあるものも含んで立ち木の約半分にのぼりました。
多数の立ち木が雑然と配置してあったら、それらを一切伐採せず、かつこれも雑然と配置されている浮き石を抑えてワイヤロープを張る、という作業はほとんど不可能かもしれません。
本件特許との比較
立ち木の半分も伐採してしまうとすると、川鉄工法は、本件特許の「傾斜面上に点在する立ち木を伐採することなく、・ .・避けて」ワイヤロープを張設するという要件を充足するということはできない、と判断しました。
その点は、本件発明の目的は効果からも判断できる。
本件発明では、「立ち木2…をそのまま残せるから、環境破壊を招かず、自然保護の点で有益」であり、「立ち木の伐採を要することがないから、設置が簡単でかつ環境破壊や美観の低下を伴うことがない利点がある。」ことを標榜している。
しかし川鉄工法ではワイヤロープの張設に先立って、施工区域の傾斜面に存在する立ち木の約半数を伐採するものだから、本件発明が目的としている上記効果を奏するものということもできない、ということです。
結論
以上のとおりなので、川鉄工法が本件特許の技術的範囲に属するということはできず、東京製鋼の請求は理由がなく、本件控訴を棄却する、との判決でした。
建設特許の判例トップへ
ページの先頭へ
山口特許事務所へどうぞ